■
近くに用事があって、五年程前に離れた町に行った。
いい思い出はなかった場所だったけど、ふと自分を試してみたくなって、住んでいた家の前を通ってみた。
辛い思いを沢山した場所。 緊張したのか、早足になっていた。でも、大丈夫そう。ここはもう私とは関係ない場所になってるんだ。そう思った。
後ろから、トラクターのガタガタ揺れる音がして、私を追い越していった。農家をしていた当時の大家だった。
安心しそうになっていた胸がきゅっとくるしくなった。
辺りが暗かったのもあったのか、大家は私に気がつかなかった。やっと安心した。
狭いカーブ道にさしかかり、もうちょっとでこの町を抜けられるというところで、前から来た白い車が私に気づかず、スピードも落とさずすれすれのところを走っていった。ナンバーを覚えていたので分かった。
以前、驚いて避けた先の水田に落ちた私は泥だらけになってしまった。あの時と同じ車。
まだあんな運転をしてるんだ。
町を抜けてほっとした。
近くのコンビニは潰れ、カラオケ屋になっていた。
小さな花屋が、繁盛して倍の広さになっていた。
だけど、あの町は変わらず、五年の歳月がほんの数ヶ月くらいのもののようだった。空気すら変わってないように感じた。もう私は来ないけど、それも関係なく、
明日からも変わらずにあるんだと思う。
土地に仕事を持って、家を構えて、そこで生活していくというのは、そういうものなのかもしれない。
私にはただただ、偏見や噂話や昔の仕来りが好きな人達の集まりにしか見えなかったけれど。
そこにある苦労も、私は知りたくない。
自分が気持ちひとつでどこにでも流れる根無し草なことが、今日は少し許せる気がした。