ましろ blog

~自己完結型ADHD人間の生態と備忘録~

苦しい言い訳

職場に美人がやってきてからというもの、あちこちが綺麗に整頓され始めた。まだひと月も経っていないというのに、バイトに来るたび何かしら備品が増えていき、定位置になったものが変更され、私が「仕事を取られるんじゃないか」と心配していたのは、あながち外れでもないようだった。彼女が来た日はすぐ分かる。掃除があらかた済んでおり、そこかしこに「彼女なりのアレンジしたやり方で分かるように」綺麗になっている。元に戻しておけばいいものを、ちょっとだけ変える。そこがポイントだと思う。なるほどこれはマーキングに近いもののようだな、と私は感心した。

美人はよく気がつくので、店主はすっかり彼女の言い様に頼っているようだ。今日のバイトも、大体いつも通り店主が遅れる形になった。メールで「鍵はポストに入れてます」と来たのだが、その鍵も、ポストから半分だけわざと出してあった。いつもならこんな事はなかった。わざわざ出しておくなんて無用心な、と思いつつ店に入ったが、店の片付き様を見てこれは彼女が入れたんだな、と感じた。美人の侵食度がすごい。

私は仕事のほとんどの時間を一人でいられたので、この際だからその侵食具合を楽しんでみようと思った。いつもは適当な散らかり具合のカウンターも、美人の通ったあとが分かるかのようだった。

そして、カウンターには店主が漬けた梅酒が二種並んでいるのが、ひとつ瓶がふえていた。その瓶には「看板娘○○ちゃんの漬けた梅酒」と書いてあって、私は笑い転げてしまった。ここは彼女の店だ!

 

前回、私が仕事を終えて帰る時に、おつかれさまでしたと声をかけたら

美人は「ありがとうございました!」と私に言ったのを思い出した。

この分では言い間違えではないな、と思う。彼女はすでに店になくてはならない存在になり、私よりひとつ上の立場にもう居るのだった。

しかし看板娘とは、先に入った紅一点の女性スタッフもいるというのにその辺いいのかねえ、などと邪推しながら仕事をしていたら、店主がやってきた。挨拶したところで、後ろに美人が居るのに気がついた。

いつもの時間より遅いし中途半端なので、今日は来ないのだと思っていたので、ちょっと驚いた。

とりあえず経過などを報告していたのだが、美人に今日は威圧オーラを感じなかった。あれっと思った。ピリピリした感じがない。

私との話もそこそこに終わった頃に美人は「さむーい!」と言って店主の着ているパーカーを脱がせて自分がくるまった。そして私に笑顔を向け「身ぐるみはいじゃった、ふふ」と言った。

王者、余裕の貫禄であった。

私もハハハ、と合わせて笑ったが、どうも引いてるのは伝わったようだった。美人はゆっくりと店から出て行った。店主は困った様子で、私に遅れたことを詫び、遠くに住む美人を送迎しているから明日も遅くなるよと言った。苦しい!この言い訳は苦しい。店主、面子が立たない。しかしこの肉食系女子にかかっては仕方のないことかもねえ、と思いながら、そうなんですか~わかりました~とだけ答えておいた。

来週来た時にはもう結婚してても驚かない。